印刷・コーティングにおける粘度管理の意義

目次:
[まえがき] 
[1.粘度コントロール ー なぜ?]
[2.印刷業界で使用されるテストカップ]
[3.ローター方式による自動粘度コントロール]
[4.インクの特殊な性向、特質について]
[図表.1:テストカップ比較表]
[図表.2:各種テストカップ 特性グラフ]
[図表.3:粘度グラフ]

粘度コントロールの意義
現在、多くのインクやペイントを加工プロセスの中で扱われる現場ではバッチ方式によるか、自動システムによるかは別として、粘度を管理されており、その結果は製品の品質上また経済的側 面からも大きな影響を与えています。

オペレーターがテストカップを用いて管理する方法は、グラビア印刷行程などでは最も手軽で経済的な方法ですが、テストカップの性能やオペレーターの熟練度、またインクそのものの性状か ら、多くの欠点が指摘されており、より良い結果を期待するためには、自動粘度コントローラー を使用する事が適切です。

粘度を計測するセンサーは、ローターが回転するタイプのものが比較的高精度で、世界的にみても主流ですが、 これら自動コントローラーを使用される事により、より高い次元での品質管理やコスト削減効果 を期待することが出来ます。

しかしながら、自動コントローラーを使用されても、思ったほどの良い結果がでない場合があります、それはインクそのものが持つ特殊な物性や性状変化に起因するものであり、適切な粘度管理をするためには、溶液の物性に対応した手法をとらねばなりません。ここでの物性とは、温度特性やせん断速度が高くなると粘度が低くなるという構造粘性挙動、また構造粘性に時間的な変化が加わるチキソトロピー等のことをいいます。構造粘性がある場合には、ローター式のセンサーが最も適したシステムと考えられています。

1. 粘度コントロール ー なぜ?

溶液の粘度管理はなぜ重要か? この問題に適切に答えるために、その理由を2つのセクション に分けて考えてみたいと思います。

   * 品質を高めるために必要です。
   * 適切な粘度管理は、材料の節約という大きな経済的メリットをもたらします。

例えば印刷行程の中で、インクの粘度管理は非常に重要なものです。 粘度が変化する事は、す なわちインクの濃度が変化することであり、それによって印刷のし易さ、耐候性、乾燥性、また 耐摩耗特性などが影響されます。 これらの因子はすべて印刷の品質に関わるものです。

ユーザーが印刷会社にオーダーを出すときには通常、色の指定を伴った印刷のレイアウトが示さ れ、 印刷現場はこの指定に限りなく近い品質のものを刷り出し、それをそのロットを通して維 持する事が要求されます。

インクの粘度は、印刷の色具合を一定に保つ上で非常に重要なポイントです。 粘度が低すぎる ということは、希釈溶剤が多すぎるという意味であり、色が薄くなるという事です。 反対に粘 度が高すぎるということは、色が濃くなりすぎるという事になりますから、オペレーターは常に この粘度変化を最小にするようせねばなりません。

特に包材関連の業界では、この点での印刷品質の重要性がますます増してきています。 今日包 材の印刷とは、単に製品を包み、中の商品が何であるかを示すためのものだけではなく、消費者 が店頭で最初に目にし、そのデザインや色から製品事態の内容を想像し、買うか買わないかの決 断をする重要な要素となって来ているからです。 すなわち今日の包材とは、内容物の保護が物 流上の利便のためだけではなく、製品そのものの一部をなす要素と考えられるようになっているのです。

生産行程における品質の維持の問題のなかでも、ここではインクの”耐摩耗性”ということを考 えてみましょう。
インクの粘度が上昇するに従って、ウェブに乗せられるインク顔料の量は増え、それらの多くは ウェブ表面にしっかりと固着しないために耐摩耗性が低下します。 従ってそのような包材は、 流通過程において、色落ちや傷を生じやすくなり商品価値を損なう原因ともなり得るのです。  通常そのような包装をされた商品はショップの棚で同じような競合製品と隣り合って陳列されて いますので、消費者は必然的にそれらの色具合を比較検討する事になります。 もし色具合が本 来あるべきものより悪かったり傷が表面にあるような場合、消費者はその中身の品質まで疑うこ とになりかねないのです。

粘度管理が品質に及ぼす影響について述べてきましたが、次に経済的側面について考えて見ましょう。 粘度管理はインク消費量を必要最小限にするという観点から非常に重要な 要素だと認識されています。 印刷コストにしめるインクの割合が非常に大きなものだからです。

アメリカの全国印刷インク製造者協会(NAPIM)の調査によれば、テストカップの一秒の差が インク消費量に大きな差を生むということが指摘されています。
その報告えは、 例えば Zahn cup #2(ザンカップ)を使用して秒数が規定の17秒から18 秒に上昇するとインクの消費量が18%増えると報告しています。 18%という数値は実に大 変な数値です。 長い期間にわたって18%も増えたインクコストを誰が補えるでしょうか?  これは製造現場にとって絶対に避けなければならない無駄といえるでしょう。この報告では、又 ザンカップに変えて、shell cup #3(シェルカップ)を使用した場合、その上昇は7.3%になるとも言っています。 18%よりは小さくなったとはいえ、インク消費量が7.3%無駄に増 えるということは、 これがまだ改善に値する数値であるということは明白でしょう。

長い期間にわたって、品質維持に苦労し、しかも大量に無駄なインクを消費しながら高い利益を出してゆける印刷会社があり得るでしょうか?

粘度コントロール ー なぜ? という質問の答えはここで明らかです。

     品質を高め、そして
     無駄なコストを省きます。

2.印刷業界で使用されるテストカップ

インクの粘度を管理するための古典的な方法は、テストカップを使用することです。
テストカップとストップウォッチを使用するやりかたが、最も経済的で誰にでも出来る手軽な方 法で、自動粘度コントロールにおいてもインクの落下秒数を粘度単位とするということが、最も 標準的な手法になっています。

テストカップが最も手軽であるが故に、多くのユーザーはそれが持つ様々な欠点に気づいていま せん。 マーケットには、テストカップの種類だけで50以上もあるという事実がその欠点を示 唆しています。 これらカップは、その容量、ノズルの穴径や長さなど様々ですが、同じメーカ ーの同じものでもその性能に差が現れます。

後掲の図表.1は同じ溶液で、種類の違ったカップで粘度計測した結果を示したもので、カップにより溶液の排出秒数に違いがでる事が分かります。  ある粘度ではカップによって排出秒数が 32〜294秒の差があり、また別の領域では10〜22秒の差になって現れています。カップによっては非常に大きな差が出ていますが、すべて同じ条件での計測結果なのです。 このテーブルに示された数値は粘度変化にかかる、その溶液の粘度性状を表すものではありません。

国際的に絶対粘度(Dynamic Viscosity)を表す数値は、ミリパスカル秒(mPas )の単位が使われています。 この数値で各テストカップの性向を示したものが、後掲の図表.2です。 この表でも同じ粘度に対するテストカップの個体差が見て取れますが、 またこのグラフから粘度変化に対応した各カップの秒数の変化が直線的には変化していないことにも気がつきます。 これはインクがカップの出口細管を通り抜ける時の流れの状態が常に一定でない事に起因しており、また排出時間は細管の穴経や排出口の角度など様々な要因に影響されます。

さらに留意すべきは、カップの全てが同じように正確な数値を示すとは限らないということであり、 他のものより、より信頼性の高いものがあるという事実です。  1988年に国立印刷インク研究所(NPIRI)がフレキソインクの印刷特性について科学的分析を行い、この時併せてShell カップとZahn カップの比較テストを行った結果は特に注目すべきものです。

その比較の結果明らかになった点はまず、カップから液が排出される時の正確性(安定性)についてでした。 シェルカップは繰り返し精度についてザンカップよりかなり高い数値を示しました。 また同じものを、複数の人が計った場合の秒数の違いについても大きな違いが見られます。

テストカップ 同一のオペレーターが繰り返し計測した場合の偏数(%) 複数のオペレーターが計測した場合の偏数(%)
Zahn 11(同じカップを使用) 33(同じカップを使用)
Shell 18
Ford 20
ISO 10

上の表から分かるように、複数の人によって計測した場合、シェルカップでは18%であったのに対して、ザンカップでは33%もの偏差が出ています。 この表ではその他にも、FordカップおよびISOカップについてのデータも示されていますが、このデータの中ではISOカップが最も信頼性の高いものと言うことが出来るようです。

このような個体差がでる原因は、それぞれのカップが持つデザイン特性によるものと説明する事が出来ます。  Zahnカップは排出ノズルに特別な形状を持っておらず、その長さはカップの肉厚そのもので、その厚さは1mmに満たないものです。 さらに最後の1滴が落ちる時のキレが明確でないために、いつが本当に最後の一滴なのかがわかりにくいのです。

Zahnカップの規定の容量は44mlですが、実際には43〜48ml というばらつきがあるために テストに際しては常に同じカップを使用する必要がありましたが、Shellカップでは規定の23ml という数値が常に得られ、しかもその排出ノズルの長さが25mmあるため、最後の1滴を確認するのが容易なのです。

テストカップによる計測が不正確になりがちだという理由には、カップそのもの以外でかつ決定的な要素があります。 それはオペレーターです。 オペレーターはみなそれぞれ固有のクセを持っており、その主観によっていつが最後の一滴なのかを決定し、ストップウオッチを押しますので、人により秒数に遅い、早いの誤差が出がちなのです。

もし複数の人が、同じ粘度溶液、同じカップで計測を行った場合、きっちり同じ秒数を読み出せるのは稀と言わねばならず、粘度の比較的高い溶液では、オペレーター間で1秒の誤差が出るのは珍しいことではありません、そしてその1秒の誤差がすでに大きな無駄を生み出しているという事なのです。

3. ローター方式による自動粘度コントロール

テストカップによる計測についての議論を終えた今、それに変えて自動粘度コントロールの採用がどんどん増えているという事は容易にご理解いただける事でしょう。 より高い精度、継続的な自動コントロール、インクの節約など、色々な観点から自動コントローラーを選択され、また市場には様々なタイプのシステムが供給されています。

様々なシステムの中で最も一般的に普及しているのは、回転式ローターを持つセンサーで、このシステムが最も信頼性の高いものと言われています。 モーターにより一定回転しているセンサーを溶液に浸すと、ローターと液の間に摩擦が生じ、その抵抗力がローターの回転を落とします。 その落ちた回転数はパルス信号としてコントローラーに送られ、設定された値と比較されて、溶剤の供給ラインを開閉するソレノイドバルブのスイッチングを行います。

コントローラー上では、テストカップに応じた秒数を粘度の単位として粘度値を表示することができます。  ミリパスカル秒(mPas)の数値を使用することもできますが、通常は研究室などでのデータ分析などの目的に限定されています。 通常印刷現場では、今まで長い間馴染んできたテストカップの秒数による入力が、たとえそれが2章で述べられたような状況であるといえども、好ましい方法として受け入れられているのです。

ローター回転式センサーを持つ粘度コントロールシステムは粘度の低い溶液に対して高い感知能力を持っています。 2000〜3000回転という高速で回るローターは高い剪断速度を持ち、DIN, Ford あるいはZahn カップに換算した秒数で1/10秒という、高い分解能力をコントローラーに与える事が出来るのです。

ローター式センサーは常に連続的に計測を行いますので、その結果に応じて供給される一回分の溶剤の量は少量で良く、それが絶えず連続的に行われているために、コントローラーは粘度変化を狭い領域で検知する事が出来ますので、ユーザーが望む設定値により近い数値で制御する事が可能になるのです。

自動粘度コントロールを買うために必要な初期投資は、テストカップによるよりもかなり高いものになります。 しかしながらその初期投資は非常に早い期間に回収する事が出来ます。
精度の高いシステムを正しく使い続ける事で、年間に節約出来るインクの量は10〜30%にもなると言われています。 このことからコントローラーに対する初期投資は長くとも2年以内、また大型の機械を設備されていたり、2交代、3交代をされているようなユーザーでは1年以内に償却する事も不可能なことではないのです。

4.インクの特殊な性向、特質について

もしインクの粘度を計測し、正確にコントロールする事を望むなら、インクを構成する成分が持つ特性を無視する事は出来ません。 今日一般的に使用されているインクの多くはやっかいなものです。 それらの多くは最新の機械やユーザーが要求する用途に応えるために実に複雑な構造を持っています。

インクが持つ特質の中でも、ここでは以下の2つに注目してみたいと思います。
その一つは、温度レンジにより粘度が大きく変化する性向であり、もう一つはチキソトロピック な性向についてです。
   訳者注) チキソトロピー = 液状化
        振動が与えられることにより液化し、放置すると固化するゲルの性質

穴経4mmのカップで2種類のインクを計測した時の、温度による変化

15℃ 20℃ 25℃ 30℃
32秒 28秒 22秒 18秒
28秒 24秒 18秒 16秒
資料引用:Erwin Schulz,"Flexodruck",Polygraph Verlag Frankfurt am Main, 1982.


インクの温度が上昇すると通常、その粘度は下がります。 印刷機は運転開始と共に温度が上昇していき、通常その温度は20〜30℃の間ですが、インクはその温度変化に対応して粘度を変化させます。 上のデータに見られる通り、2通りのインクが温度の変化によって、どのようにその粘度を変化させて行くかが読みとれます。 一つのインクは温度が15℃から30℃に上昇する間に、その粘度は32秒から18秒に下がっています。

インクはそれぞれ固有の温度特性を持っており、それに全て個別に対応するのは不経済であり、また後述されるように、通常粘度コントローラー側でこの問題を取り扱う必要はありません。
温度の変化に対応してあまりに大きくその特性を変えるようなインクの場合、最も経済的で簡便な対応策は、冷却装置のついたインクタンクを用い、温度上昇を最小限の範囲に保ちながら行う事です。

印刷機上での温度変化が通常の範囲でいる限り、粘度コントロールに特別な工夫は必要ありませんが、その度合いが非常に大きい場合、それは粘度変化にとどまらず、インクそのものの性状を変化させる事にもなります。

後掲の図表.3は印刷機上における20℃から30℃への温度変化が、なぜ粘度コントロールにそれほど影響を及ぼさないか示しています。  印刷機械は密閉でなく周囲環境にオープンなシステムであり、インクタンクまたインクファウンテンの溶剤は絶えず揮発しており、機械の温度上昇によって、この揮発の度合いはより加速されます。 従って、図表のカーブ.1に見られる通り、 インク粘度は温度上昇そのものがもたらす粘度低下(カーブ.2)より、揮発による粘度上昇のほうの度合いが高いのです。 それ故、粘度コントロールされないインクは粘度をなお上げて行きますので、カーブ.3に見られる通り、依然として粘度コントロールの有用性は高いのです。

ユーザーにとって、インクの温度による影響より、もっと大きな問題はチキソトロピックな性向を持つインクの取り扱いです。 このようなインクは、テストカップで計測した粘度値とコントローラーが示す値に違いの出る事があります。  インクが静止している状態と印刷機上で流動し、インクに発生した内部応力によってその物性が変化している時で、粘度に変化が出ているからです。

チキソトロピックな傾向をもつインクをテストカップで計測した場合、往々にして最後の一滴が完全に排出されない事が起こります。 インクタンクの中でかき回されて十分液状になったものを計測したとしてもです。 この結果テストカップによる値は違ったものとなり、印刷機上で色々な条件に支配された上で示される粘度値とは違ったものになってくるのです。

高速回転するローターを持つセンサーは、このような性状を持つインクの粘度計測により高い精度を出すことが出来ます。 なぜなら、ローター自身が計測地点のインクを撹拌しゲル状になる事を防いでいますので、その粘度値は常にインクが印刷時点でのあるべき状態でのものであるからです。 この観点からオンラインで行われる自動粘度コントロールは、テストカップによる方法に比べ、より信頼性が高いと言えるのです。

チキソトロピックなインクの中でも、特にその性向の強いものを使用される場合、テストカップは最早、信頼をおくべきツールではなく、また自動粘度コントローラーにしても、例えばボール落下式センサーは使用しない方が良い場合があります。 落下チューブの中ですでにゲル化が始まり、その結果読み出される粘度数値が不正確なものになるからです。 このような場合に信頼をもって使用できるシステムはローター回転式のシステムしかないのです。


 参照資料:Jean S. Lavelle, "NAPIM Studies Show Zahn Is Least Accurate Efflux Cup",
        NPIRI Staff, Lehigh Unitersity, 1988.

opti-color GmbH社は1971年設立以来、粘度コントローラーのスペシャリストとして、印刷業界のみならず、世界中の 石油、化学、自動車、食品産業など広範なユーザーに支持されてきました。 それは、粘度とは何か? という原点を深く追求する事から始まり、個々のユーザーが持つ固有の問題点や要求されるアプリケーションに応えるための、たゆまない研鑽と努力の結果が今日提供する、様々な製品のラインアップに結実しているからです。
単独のユニットとして使用されるケースから、本機のコンピューターと連動して制御するためのシステム、また内容的には新しいマーケットニーズに対応した、温度、ph コントロールを備えたモデル、 広範囲で高い粘度領域を持つユーザーに高精度なコントロールを提供するための、周波数制御型ローター式システムの開発、 またグラビヤやフレキソ印刷業界の多品種、小ロット化に対応すべく開発された、マイクロプロセッサーで複数のボール落下センサーを一括制御するマルチpvc/FK など、ユーザーが抱えられた様々な要求に対応する事が出来ます。

昨今、グラビヤ、フレキソ印刷業界では脱溶剤化が盛んに取りざたされていますが、水性インクは粘度管理が不要でしょうか? 水性インクは溶剤タイプよりむしろシビアな粘度管理が不可欠と言われています。 小さな粘度変化が溶剤タイプより大きく品質に影響を与えることが分かっているからです。 溶剤タイプの場合にはさほど気にならなかった温度管理や、水のPH管理もよりシビヤな対応が要求されるかも分かりません。 OPTI-COLOR 社は常に、ユーザーの問題解決のための良きパートナーとして、あらゆるお客様からの問いかけをお待ちしています。


種類の違うテストカップによる流出時間
この表はそれぞれ同一の粘度を持つテスト溶液を数種類のテストカップで計測した時の秒数の違いを表したものです。
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図表.2
各種テストカップ 特性グラフ: 右上がりの角度が急なカップほど粘度変化に対して敏感でありより低粘度溶液に対する適正が高いと言えます。


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図表.3:各状況における粘度の変化
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